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浮気者だが、身体は一つしかない

(Sep. 14/2008)


 さあ、いよいよ夏休みだっ! 講義はすべて終わったし、あとちょっとだけ成績処理をやったら、溜まった「仕事」を片付けるのだ。もちろんここでいう「仕事」は、"duty"とか"task"ではなくて、"work"のほうだ。

 と思っていたのは1ヶ月前のことである。そして、すでに今日は9月14日。長崎大学に奉職してからと言うもの、夏休みが計画的に進んだことがない。

 この夏にはひとつおおきな原稿をまとめようと考えていた(いや、考えている。いまでもそのつもりだ)。8月上旬に大阪大学での楽しい集中講義を終えて、お盆をはさんで2週間、どっぷりと執筆に取り組むつもりだったのだが、まったく上手くいかなかった。

 ひとつは成績処理に時間がかかりすぎたことがある。この前期は、学外で非常勤を2コマ持ち、学内では1年生が150人近く受講するクラス(フィールドワーク入門)に足を突っ込み、140人が受講するクラス(異文化交流論)の半分くらいを担当し、3年生のゼミをやり、2年生の基礎ゼミをやり、卒論の面倒をみて、博士課程では外国人3人を相手に英語で講義していたのだ。このうちフィールドワーク入門と異文化交流論の成績のとりまとめをしたのだから(総勢300人分!)、時間がかかるのは当たり前だ。

 で、気がついたらお盆にかかってしまったのである。

 お盆に入ったら入ったで、今度は思わぬ「引っ越し」が待っていた。私自身は長崎に住んでいるわけだが、生活の一部が鎌倉に移転することになってしまったので、その準備やらなにやらにまる一週間を費やす羽目になったのである。

 そして、長崎に戻ってきてみれば、引っ越しのあとの散乱した部屋が残され、大学には雑務が待っていた。「お仕事」ばっかりで、「仕事」などできようもない。大学での仕事についてはここに書けないことも多いので触れないでおくが、とにかく業務は怒濤のように押し寄せてくる。それを処理するだけで一日が過ぎてしまうこともざらである。

 研究についても、じつはいくつかの案件を抱えている。自分の科研に関する研究(民族紛争と資源に関するもの)があるし、共同研究の科研(開発についてのもの)がある。長崎をフィールドとした論文がすでに4つほど企画されていて、そのうち1つはすでに9割がた完成しているのだが、あとひと息というところで放置されてすでに3年くらい経っている。ゼミ生との共同研究(これはかなり面白いものになる)もしっかり進めたいのだが、そういう贅沢は許されるのだろうか?

 問題はこの身が一つしかないことなのだ。

 明日から神戸に行き、6年目に突入した集中講義をやったら、そのあとは鎌倉に行って原稿を書く。長崎に戻ってきたらいくつかの会議が控えていて、あっという間に新学期である。

 新学期に入れば、非常勤のコマが2つ、学部の講義が1つ、大学院の授業が2つ、健康開発のゼミと3年生のゼミと6人分の卒論指導。修士論文を見ている院生もいるし、外国人研究生のことも気にかけなければならない。どれもテキストに沿って淡々と授業をこなしていくようなものではなく、喩えていえばアラカルトばかりである。それもネタの入荷しだいで随時変更を余儀なくされるようなメニューだ。

 そうはいっても、とりあえず、やらなきゃならない。

 今しがた、後期の授業と自分の研究に備えて、合計8万円分の書籍を発注したが(大学生協のネット書店にて)、半分は民族紛争についての研究書、半分は国際公衆衛生についての研究書と教科書である。この2つの分野を同時に進行させ、なおかついくつもの具体的なテーマを並行して走らせるのには相当のマネジメント能力がいるだろう。基本的な仕事処理能力の低い私にとっては、それは不可能なのである。困ったことである。

 それでもって、さらに困ったことに先週から10日あまり中国に出張してしまった。大学の「会社員」としての仕事である。上海、北京、大連と移動して30枚近い名刺を交換し、数百名の学生に会ってきた。「困ったことに」と書いたのは、この中国出張が時間を圧迫し研究が出来なかったから、ではない。まったく逆で、この中国旅行が面白すぎて、俄然中国に興味が湧いてきてしまったのだ。

 困ったことである。中国語は「ニーハオ」と「シェシェ(謝謝)」くらいしか言えないというのに。

 私の専門はエチオピア南部のバンナをフィールドとした社会人類学の研究である。もうすこし一般化して、なおかつ、今取り組んでいる研究テーマを括ってしまえば「開発と近代化にともなう異文化衝突と紛争の研究」となるだろう。この中には民族紛争も、バングラデシュの民間療法も、ケニアの公衆衛生も、環シナ海の都市化と文化資源も、長崎の昭和史も、バナナの叩き売りも、みんな入ってしまう。

 でも、身体は一つしかないのだ。浮気者には辛いところである。