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天井裏の大宮殿

(Sep.03/2003)

ことの発端は4日ほど前、我が家の裏、路地一本隔てたところのお宅のYさんが訪ねてこられたことだった。うちでは呼び鈴が鳴ると一瞬身構える。郵便配達やペリカン便のおじさんなら歓迎するが、NHKや宗教(→どっちもやっていることが結構似ている)だったら出る必要はないからだ。だが、その時はこちらが躊躇する間もなく、Yさんは門を開けて入ってきたのである。ちなみにYさんとはほぼ初対面である。

Yさんがおっしゃるには、うち宅の庭にスズメバチがたくさん飛来してきて困っている、どうもお宅の屋根裏に巣があるようだから駆除してもらえないかということだった。恐る恐る見てみると、たしかに。台所の天井裏の通風口を出入り口にしてキイロスズメバチがたくさん出入りしている。数えてみると、一分間に30匹も出たり入ったりで、これまで気づかなかったのが不思議なくらいだ。「玄関」のところでは何匹かの働きバチが、中に向かって律儀に風を送っていて、我が家の居候にしてはわりと統率がとれているようだ。

ひとまず3分ほどビデオを回して、それが本当にスズメバチであることを確認。そういえば、ちょうど去年の今頃にも、飛来してきたミツバチの大群を午後いっぱいかけて撮影していたんだよな、なんて思い出しながらカメラを回すも、こちらは何といってもスズメバチである。ミツバチに刺されても「痛い」だけだけど、スズメバチに刺されるのは「すごく痛い」のである。スズメバチについては以下のサイトで勉強した。

都市のスズメバチ

ちなみに私はこれまでアシナガバチに1度、ミツバチには何度も刺されている。アシナガバチのときは誤って巣を踏んづけてたかられてしまった。バンナにいたときには、サンダルの中にいたミツバチに刺されたり、口に入れた取れたて新鮮ハチミツのなかに針が残っていて口の中をやられたりした。バンナでは飲み残しの甘い紅茶をかぎつけられて、テント中にミツバチが充満し、しばらく避難したことがある。

この春に、ハチミツ採集のことを講義で話したときには、ミツバチとスズメバチの区別がついていない学生が多くてびっくりしたよな。

くだんのサイトでは、「2分間に15匹あまりが出撃した」ことを根拠に、「この巣は相当大きい」と判断されていた。ということは1分間に30匹が出入りする我が家の場合は、屋根裏にかなりの大宮殿があると見てよかろう。Yさんがおいでになったのは日曜日だったので、翌日、逗子市の公報に載っていた業者に電話をした。夕方に業者さんはやって来た。60がらみの親方と、私と同年輩くらいの若い衆ひとり。書斎の天上板をはずし、防護服を身につけて入っていくと、正味1時間ほどで巣を撤去して戻ってこられた。巣は一抱えほどもある大きさであったらしいが、業者さんは殺虫剤をたんまりと振りかけて、巣をぐずぐずに破壊してしまったので、われわれが目にできたのはゴミ袋に入ったその残骸だけである。のぞいてみると、幼虫はまだ生きていて、これがかなり大きい。たしかに、これなら佃煮にしても食べ応えがあるだろうに。

その後、殺虫剤を浴びた個体は近所をふらふらと飛び交い、うちの庭にも息絶えたのが何匹も転がっていた。隣のIさんのおばあちゃんも「これがスズメバチなのね」なんて言っておられる。Yさんのところにも挨拶に言った。通風口は業者さんによって網でふさがれたが、まだ残党がうろうろしている。

でも、勝手なことを言わせてもらえれば、本当のところは駆除したくなかった。スズメバチは秋になると巣を放り出す。そして二度とその巣を利用しない。ということは、秋になったら空き家になった大宮殿をコレクションできたかも知れないのだ。それを言ったら、「そんなのどこに飾るのよ、私はイヤだからね」と同居人に言われてしまったけど。我が家は築50年以上たった、木造家屋である。たぶん、ほかにもうち捨てられた大宮殿の遺跡が眠っているのではないだろうか。