空蝉
(July 28/2004)
夏は好きだし、嫌いだ。
小学生の頃、夏になるとやたらと早起きをしていた。私は小学6年生まで、夜9時には布団にもぐるよう指導されていたので、夜明けの頃には目はぱっちり、アタマすっきりであったから、ひと気のない通りを自由自在に自転車で走り回っていたのだ。そう、基本的に夏のことは好きなのだ。
それにしても、今年の夏の暑さはなんだろう。先日など、昼時に渋谷界隈を歩いていたらめまいを起こした。あとちょっとで倒れるところである。気温38度なんて日は、外出禁止にすべきなのだ。
夏になるといろんな人に聞かれるのは、「エチオピアもこんな風に暑いんですか」という質問だ。いま時分のバンナは雨期があけたころだから、日差しは結構きついが、湿度が低いので木陰にいればしのげる。東京の夏のような「苦しい」暑さはない。
2週間ほど前になるか、せっかく海の近くに住んでいるんだし、もう夏だからという理由で、じつに久しぶりに逗子の浜辺に行った。数週間ぶりにぽっかり空いた、金曜日の夕方だった。砂浜まで自転車をこぎ入れ(砂に車輪を取られるのでけっこう大変)、砂の上にどっかりと腰をおろした。風が強くて、地表すれすれをこまかい砂粒がびゅんびゅん飛んでくる。沖合はるかに江ノ島が見える。富士山の方角に陽が沈んでゆく。ウィンドサーフィンの連中がぞくぞくと浜に上がってくる。
いま住んでいる家にはちょうど3年前に越してきたのだが、それ以来、7月末はセミの脱皮を観察する習わしとなった。最初の年には庭でみつけた抜け殻をかたっぱしからあつめた。60個くらいあった。抜け殻をみて、種類を言い当てられるようにもなった。この年になるまで、私はセミの脱皮を目撃したことがなかったので、脱皮の場面をビデオで撮ったりもした。
気を付けてみると、セミはあちこちで脱皮している。軒の柱、玄関のひさし、門の扉、自転車の車輪・・・。物干し用ロープに、レスキュー隊員のようにぶら下がって脱皮したヤツもいたらしい。脱皮に失敗してそのまま息絶えてしまうものもいた。脱皮は出来たが羽根がのびきらずに、何日間も地面を這いずりまわり、挙げ句の果てにアリにたかられているのもいた。
深夜に帰宅して、門扉のところで脱皮しているヤツをみると、門を開けて家にはいるのがはばかられる。
夏は毛虫との戦いの時期でもある。世の中には毛虫が苦手な人と、ゴキブリが苦手な人がいるが、私は前者だ。子供の頃に住んでいた家には、大きな栗の木があって、この木には毎年大量の芋虫・毛虫がたかっていた。かなり大きな芋虫で、子供の目には、それはバナナくらいの大きさに見えたものだ。そうしたバナナ虫がぽとりと落ちてきたり、自転車に踏みつぶされているのを見たりした経験が、私をすっかり芋虫毛虫嫌いにした。
草むしりをしていると、あちこちで芋虫・毛虫に出会う。庭木に絡まった蔓草を取り除いたら、緑色でトゲトゲの付いた毛虫がびっしりたかっていて、私はそれらを片っ端から駆除した。こうして私は、ムシに荒らされた庭の秩序回復をはかるのだ。
3年住んで、さまざまなモノたちが散乱する我が家を眺めながら、近く予定されている転居のことを思う。もうこの先、こんな日本家屋に住むこともないだろうし、この建物自体、私たちが出ていった後には、それこそ抜け殻のように放っておかれて、やがて朽ち果て、あるいは解体されてしまうだろうのだろう。
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